レポート
REPORT

新しいアートアワードが目指すものとは?
キックオフイベント・レポート

text:Taisuke Shimanuki
photo:Ujin Matsuo

2017年3月18日。「アートフェア東京2017」内で、Asian Art Award supported by Warehouse TERRADA(以下、AAA)の記者発表会と、選考委員や審査員らによるトークが行われた。このコラムでは、当日の様子を伝えつつ、AAAが目標とするところについて伝えていきたい。

記者発表会において、同アワードを主催する「一般社団法人 アート東京」代表理事の來住尚彦は、「9月から10月にかけて行われる展覧会にて大賞受賞アーティストが1名(組)決まり、その後、来年1月のシンガポール、来年3月のアートフェア東京2018において個展を行い、日本とアジアの美術界の循環を生み出すことがAAAの特徴」と述べた。

左:來住尚彦/右:中野善壽氏

続いて、特別協賛する「寺田倉庫」代表取締役の中野善壽氏は、「寺田倉庫は多くの美術品を預かり保管しているが、それだけにとどまらず保管そして修復技術の向上を追求し、『100年文化を繋げる』サポートを進めている。」と述べた。

日本とアジアの美術が循環する環境を生み出すことを特徴にしているAAAにおいて、同社の存在は重要な一翼を担っていると言える。なぜならば「もの」としての作品を一種のタイムカプセルとし、各時代の社会動向を表す表現を後世に伝達することは、美術に課せられた使命であり、それを支える保管と修復という技術は、欠くことのできないものだからだ。

AAA審査員として記者発表会に同席した長谷川祐子氏(東京都現代美術館 参事/東京藝術大学 大学院国際芸術創造研究科 教授)はこうした相補的な仕組みを「アートにおけるエコシステム」と表現する。

長谷川祐子氏

長谷川 「AAAには、これまでのアワードにはない、3つの特徴があります。
1つは美術のプロダクション=生産。ファイナリストには新作制作のための時間と支援が与えられ、その成果は展覧会として組織されます。作品と展示、二重の生産活動があります。
2つ目は、エコシステムを生み出すコンビネーション。アーティスト、観客、美術館に見られる鑑賞・批評的なエコシステムのみならず、ギャラリーやディーラー、アートフェアが支える経済活動と関連することで「もの」の循環が生み出されます。
さらに3つ目として、「もの」の保存・修復を支える企業体の存在は、その循環に継続性を与えます。こうしたエコシステムがAAAにおいては実現されるでしょう。
また、このエコシステムはアートシーンのグローバリゼーションに対応し、アジアの経済・文化のハブとして機能するシンガポールでの展示は、AAAとアジア・世界の接続面として機能します。」

生産、流通、保存・修復という3つの領域が組み合わさることで、芸術をめぐる環境が整えられつつ、それがアジアへと開いてゆくということだ。

記者発表会に続いて行われた特別トーク「現代アートをめぐる課題と芸術賞のゆくえ」では、長谷川氏と同じく審査員の秋元雄史氏(東京藝術大学大学美術館 館長・教授/[4月より]金沢21世紀美術館 特任館長)、高橋龍太郎氏(精神科医/アート・コレクター)、宮津大輔氏(アート・コレクター/[4月より]横浜美術大学 教授/京都造形大学 客員教授)、そして審査員としてファイナリストを選出した山峰潤也氏(水戸芸術館現代美術センター 学芸員)、小澤慶介(AAAディレクター)が登壇し、現代アートを定義づける「同時代性/現代性」について議論を交わした。

左上:山峰潤也氏/右上:秋元雄史氏/左下:高橋龍太郎氏/右下:宮津大輔氏

AAAファイナリストにノミネートされた5組は、それぞれ絵画、映像、パフォーマンスなどそれぞれ核となるメディアを定めつつも、作品やプロジェクトごとに新たな技法・素材を導入することを躊躇しない今日的な作家たちと言える。そのフットワークの軽やかさは、彼らが捉えようとする時代状況、訴えようとする主張の強度に裏打ちされた、一種の多様性の現れであるのだが、それは90年代、2000年代の現代アートシーンを支えたコレクターたちを困惑させる一因でもあるようだ。高橋コレクションで知られる高橋氏はこう語る。

高橋 「メディアの多様化、拡張性にコレクターは迷っているところがあります。やはり我々は『もの』が持つ唯一的なアウラにこだわり、それが収集行為を活性化するのです。作品の価値や魅力をある意味で拡散し、みんなで共有する社会を前にしたとき、自分の保守的な部分が際立ってくる気がしますね。」

一方、映像作品のコレクションを積極的に続ける宮津氏はこう応答する。

宮津 「同じアワードのなかに個性の異なるコレクターがいるというのが、面白いし、意義のあることだと思います。私が映像作品を集めるようになったのは、比較的低価格の映像作品であれば、良質なコレクションを形成できると考えたからです。しかし、その収集を通して実感しているのは、現代アートが同時代性を重んじるということです。現在に対する問題意識を有して表現が展開されているのであれば、かたちの有無は重要ではないのです。」

作品に宿る今日性を、現代アートの一つの条件とする宮津氏の主張は、工芸を現代アートとして再定義する秋元氏の主張にもリンクするかもしれない。

秋元 「工芸や書は一見すると保守的な表現に思えますが、その領域に関わる職人・アーティストの多くが、作品を通して現代をどう見るか、どう変化させていくかを常に考えている。ですから、むしろAAAのようなアワードでは、出品者側ではなく運営側や私たち審査・選考する者の視野や思想にこそ大きな責任が課せられているのです。」

AAAの特徴の一つとして、小澤ら選考委員は「選考プロセスや、選考理由の開示を重視している」と語っている。変則的なレポートの体裁を採るこのコラムも、オープンネスのための試みの一つとして位置付けられるものだが、いよいよ動き出そうとするAAAにおいて、議論の共有はますます重要になるだろう。

左から:山峰潤也氏、宮津大輔氏、高橋龍太郎氏、秋元雄史氏、小澤慶介

トークにおいても指摘されたことだが、主に日本を拠点に活動している選考委員・審査員、主催団体、そしてファイナリストらは、どのような「アジア」を語りだすのかが気になるところだ。東アジア、東南アジア圏で柔軟に形成される多民族的な経済・文化のネットワークに取り残された感のある現在の日本が、現代アートをとおして「アジア」をどのように考えられるのか?

すでに、AAA自体も今回の第一回目を通じて、今後の審査形態、公募の範囲について議論を重ねていくことを表明している。それは、今後公開予定の選考委員5名による座談会でも主要な話題となっているので参照していただければ幸いである。