レポート
REPORT

大賞は山城知佳子に決定!
AAA2017ファイナリスト展レポート

text:Ai Kiyabu
photo:Satoshi Nagare

2017年9月27日、AAA2017のファイナリスト審査会が行われ、大賞に山城知佳子、特別賞に谷口暁彦が選ばれた。
受賞者発表記者会見の様子とともに、9月23日〜10月29日、TERRADA ART COMPLEX 4階で開催されているファイナリスト展をレポートする。

左から小澤慶介(AAAディレクター兼選考委員)、來住尚彦(一般社団法人 アート東京 代表理事)、山城知佳子(大賞受賞者)、谷口暁彦(特別賞受賞者)、中野善壽(寺田倉庫 代表取締役)

AAAのディレクター兼選考委員のひとりである小澤慶介は、選考と審査の過程で挙がったファイナリストに共通する点についてこう語る。
「5名のファイナリストを見ると、いずれも同時代に対して批評的な視点があり、表現領域を限定しない創作活動をしています。またそれぞれの作品には人物が登場します。それは、時代や社会とともに変容する身体性について語っているようにも見えます。さらに、審査会では、いずれの作品も、過去・現在・未来といった時の流れや時代の変化に向き合い、人間の存在がどのようなものなのかをさまざまなメディアを通して問いかけているという見方も出ました」。

審査員は、
秋元雄史(東京藝術大学大学美術館 館長・教授/金沢21世紀美術館 特任館長)
長谷川祐子(東京都現代美術館 参事/東京藝術大学 大学院国際芸術創造研究科 教授)
Joyce Toh (シンガポール美術館 キュラトリアルチーム共同代表)
You Yang(ユーレンス現代美術センター 副館長)
高橋龍太郎(精神科医/アート・コレクター)
宮津大輔 (アート・コレクター/横浜美術大学 教授/京都造形芸術大学 客員教授)
林洋子(文化庁 芸術文化調査官)
の7名からなる。

白熱した議論の末に選ばれた、AAA第1回目の大賞受賞者は山城知佳子だ。

山城知佳子 《土の人》(2017年 劇場版)展示風景
cooperation AICHITRIENNALE 2016 | ©Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

審査員の秋元雄史は山城の作品について、こう評価した。
「直接戦争を経験していない世代の彼女が戦争について物語る時、どうしても生じてしまう矛盾や難しさを含んで成立している作品。詩的に展開される作品から、世界のあらゆる場所で潜在しているポリティカルな問題をどう見つめるかという、彼女ならではの個性的な視点が感じられます」。

山城知佳子は1976年沖縄生まれ。沖縄の地政学的なあり方を巡って、主に映像作品を発表してきた。AAAでは「あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ」で発表した三面スクリーンの映像インスタレーション《土の人》を「劇場版」として再編、15台のスピーカーを使ったサウンド・インスタレーションとして発表した。一度出来上がった作品を作家自らの手で解体し、メディアや展示方法を組み変えることで新しい作品へと変換させる試みであった。

大賞を受賞した山城知佳子(右)、審査員の秋元雄史(左)
授与されたトロフィーは、工業デザイナー川本尚殻による六分儀をモチーフにしたデザイン。

受賞に際して山城は、「一度完成させた作品をあえて壊し、新たに映画として構成し直すことで、より多くの人に届けられる作品へと生まれ変わりました。大賞を受賞したことで、作品を通じてアジアの方々とつながっていきたいという想いが実現し、非常に嬉しく思います」とその喜びを表現した。

特別賞を受賞した谷口暁彦(右)、審査員の長谷川祐子(左)

特別賞を受賞したのは谷口暁彦。メディア・アートをはじめ映像や彫刻などさまざまな形態で作品を発表する谷口は、5つのコンピューターと液晶モニターによる新作《何も起きない》を発表した。缶詰やマヨネーズなど日用品によって構成されたキャラクターたちが、プログラムされたアルゴリズムによって2度と繰り返されることのない日常を過ごす様子を映し出す。現実の世界は、当然のことだが同じことは二度と起きない。しかし、私たちの「日常」は「何も起きないこと」によって支えられているというアイロニーも含んだ作品だ。

審査員の長谷川祐子は、特別賞に谷口を選定した理由をこのように述べた。
「AAAは新設されたばかりの賞であり、日本の作家をアジアに向けて紹介するための賞でもあります。なので、新しい世代の、新しいメディアとの関係性、そしてその身体的な感覚をどういう形で紹介しているのかが、一つの評価ポイントとなりました。また、この展覧会のために作家は新作を制作します。その機会をどのように生かし、隠れた資質をいかに見せることができたのか。中国、シンガポールからいらっしゃった審査員の方々を招いて国際的なアートの潮流について考え、そして日本からの新しい視点とはなんなのか、ということを体現してくれた方を選定させていただきました」。

谷口暁彦《何も起きない》(2017年)展示風景

谷口は今回の受賞について次のようにコメントした。
「これまで、メディア・アートの分野で活動を続けてきましたが、今回の新作は「現代アート」という舞台で発表するため完全に新しい作品を、濃密な時間をかけて作ることができたと思います。その結果、このような賞を受けたことが、自信につながりました。今回の受賞が次の作品の制作や、発表の機会にどんどん繋がっていけばと思います」。

大賞を受賞した山城には、賞金100万円と、副賞としてシンガポール(2018年1月)そして「アートフェア東京2018」(2018年3月)での受賞作発表の機会が与えられる。また、大賞・特別賞両受賞者に、TERRADA ART COMPLEX 2階の「TAC ART STUDIO」での制作場所(半年〜1年間)が提供される。

大賞受賞者発表の際、秋元が「今回は誰が受賞してもおかしくない作品が集まり、審査が白熱しました」と語ったように、大賞・特別賞以外のアーティストたちの新作も見逃せないものばかりだ。

contact Gonzo《サンダー&ストーム バイオ有限会社》(2017年)展示作品内部

「通路を渡って1つ目の部屋から2つ目の部屋へと続く、インタラクティブな作品。ギミックが効いているし、私たちは未来、(彼らの毛髪という細胞を培養することによって)contact Gonzoを再生できるというアイデアも面白い」とJoyce Toh。

2006年、大阪で結成したcontact Gonzoは《サンダー&ストーム バイオ有限会社》と題し、通路や窓、映像、送風機などで構成される空間型インスタレーション作品を発表。「contact Gonzo」とはグループの名称であると同時に、彼らが実践する方法論の名称であるとし、contact Gonzo研究家のラボという設定でフィクショナルな空間を構築した。「contact Gonzo」の系譜になぞらえるような身体の動きを捉えた中世・近代の絵画やドローイングなどの資料をコラージュしたり、DNAサンプルとして髪の毛を素材に用いたりと、今までにないアプローチの作品空間が展開している。

松川朋奈の展示風景。左から《色々なものに流されて変わってしまったのは私だったのかもしれない》《結局私はいつも誰かの目を気にしている》《そのドアの前で、ただにっこり微笑むの》《昨日は無性に誰かと話がしたかった》(すべて2017年)

「顔が描かれていなくても、緻密に描かれた手や身の回りの題材から、その近代的な生活や、彼女たちを取り巻く都市の変化も感じられた。若い女性ならではの、繊細さや美しさが表現されていたと思う」とYou Yang。

1987年生まれの松川朋奈は、現代を生きる人々の内面を絵画で表現する作家。本展では、天王洲に住む女性たちにインタビューを重ね、その中で印象に残ったフレーズなどを作品の主題に絵画として再構成した。タバコやネイルなど対象の一部をクローズアップした作品はタイトルも特徴的だ。《色々なものに流されて変わってしまったのは私だったのかもしれない》、《結局私はいつも誰かの目を気にしている》など新作5点を発表した。

山本高之《Lie to Me》(2017年)展示風景

「シンプルだが、社会の目に見えない構造の中で生きる人間のおもしろさが捉えられている。『うそをつく』ことで表れる人の表情や仕草に、ささやかだが迷いやごまかしが見える。ディテールを見てゆくとさらに新たな発見があって面白い」と秋元。

1974年生まれの山本高之は、小学校教員としての経験をもとに、子どもたちとのワークショップなどをとおして、制度や社会に疑問を投げかけるような作品を制作するアーティスト。本展では、ロンドンで道行く人たちの嘘を集めた新作の映像作品《Lie to Me》を発表した。また旧作より、ダンボールを被せられた子どもたちの行動を俯瞰する《Dark Energy》を展示している。

ファイナリスト、審査員、選考委員、主催、特別協賛の集合写真

特別協賛する、寺田倉庫 代表取締役の中野善壽はこのようにコメントした。
「山城さんの大賞受賞が発表された瞬間は、涙が出るようなシーンでした。私たちの会社はビジネスラボです。“Warehouse”という社名にとらわれず、さまざまなことに挑戦していきたいと考えています。その中で、このように新しい感性を持つアーティストたちをなんらかの形で応援できるのは我が社としては嬉しいことです」。

また、主催である一般社団法人アート東京代表理事の來住尚彦は、次回のAAAを2018年3月に行うことを発表。
「若手キュレーターが若いアーティストたちの背中を押し、力のある審査員たちが叱咤激励をしていくアワードがこのAAA。2018年3月はアートフェア東京、ART in PARK HOTEL TOKYO、3331 ART FAIRなどいくつかのフェアが集結する。アート色に染まる東京を是非皆さんと作っていきたい」と、アートを軸にした今後の展開に向けて想いを語った。