レポート
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AAA2018ファナリスト展レポート
大賞に小金沢健人、特別賞にAKI INOMATAが決定


2018年3月8日、AAA2018のファイナリスト審査会が行われ、大賞に小金沢健人、特別賞にAKI INOMATAが選ばれた。受賞者発表記者会見の様子とともに、3月3日から3月18日まで、天王洲のTERRADA ART COMPLEX 4階で開催されたファナリスト展をリポートする。



AAAのディレクターで選考委員の一人である小澤慶介は、AAA2018のファイナリストの選考からファイナリスト展に至る経緯についてこう語る。

「今回は、5名のキュレーターがそれぞれ4名のファイナリスト候補を持ち寄り、合計20名の候補者のなかから、議論を経て最終的に4名のファイナリストを選びました。選考の過程では、同時代に対して批評的な視点があること、自らの関心に合わせて表現形式や媒体を自由に選択しながら芸術の可能性を探っていること、さらに、与えられた展示空間をそれらに従って構成できることなどが話し合われました。またファイナリスト展は、さまざまな議論が反映された展覧会として成立するようにも心がけました。展覧会において、ファイナリストは、人間と人間、人間と生き物、人間とモノなど、関係を扱っているようにも見えます。」

議論と審査の末に大賞に選ばれたのは、小金沢健人だ。
※審査員についてはコチラ>>

【大賞】 小金沢健人


小金沢健人は、1974年東京生まれ。18年間ベルリンに滞在した後、昨年帰国し、現在は広島県尾道市に住んでいる。動いているものと作り手・鑑賞者との関係に関心を寄せながら、これまでに映像インスタレーションやパフォーマンス、また立体物など、表現形式を問わず、むしろそれらを自由に組み合わせて作品を制作してきた。

AAA2018では、《追跡のドローイング》と《崩壊する新建築》という映像インスタレーションを展示。いずれも小金沢は、回転するカメラの動き続けるフレームを見ながら、前者では、レンズの先にある紙にドローイングをし続け、後者では、レンズの前の空間をオブジェや絵画、日用品などを小金沢が動かし続けながら構成している。

追跡のドローイング(サークル) | 2018 | ビデオ

崩壊する新建築 | 2018 | ビデオ、粘土、セメント、鏡、木製パネル、電球、ケーブル、ペットボトルのふた

また、展示空間の外には、《「ひめじや」より「スナック『北陸』への行き方」「ひめじや店内」「山名さん」》という、尾道在住のユニークな人物、「山名さん」を追ったドキュメンタリー映像を展示した。この人物は、ペットボトルのキャップなどの日常にあるものを使いながら、自ら営む食料品店を装飾しつづけている。動きを止めることなく、したがって終わりなく続く創作行為は、小金沢の作品制作に対する考えや行為と共鳴しつつそれらを増幅させているようにも見える。

『ひめじや』より『スナック「北陸」への行き方』『ひめじや店内』『山名さん』 | 2017- | ビデオ、紙袋

秋元雄史氏(審査員)のコメント

「ドイツに長く住んで、昨年広島県の尾道市に戻ってきたとのことですが、外壁に展示している尾道の「山名さん」を撮ったドキュメンタリーフィルムがユーモラスに作品化されていました。そのほかに回転するカメラのフレームを構成するようにして作った2つの映像インスタレーションが展示空間内にあり、3つそれぞれベクトルの違う作品が展示されているように見えるのですが、いずれも「動き続ける」というキーワードが横断的に貫いていて、キネティックな作品を作り続けてきた小金沢さんの世界の見方と作品の完成度がうまく一つの空間にまとまっていたように思います。」


秋元雄史氏(右)



【特別賞】AKI INOMATA


AKI INOMATAはヤドカリやオウム、アサリ、犬など、さまざまな生き物との応答を作品に昇華させている。本展では、3Dプリンターでさまざまな都市を象った殻をヤドカリが行き来する《やどかりに「やど」をわたしてみる》、樹脂を使って復元したアンモナイトの殻と戯れるタコの映像《進化への考察#1:菊石(アンモナイト)》、アメリカ初代大統領で1ドル札の肖像にもなっているジョージ・ワシントンを象った核を入れて真珠にする様子を撮った《貨幣の記憶》、そして福島の太平洋岸で採ったアサリの殻の断面図を拡大し、成長線の幅から近代社会とは何かを透かし見る《Lines−貝の成長線を聴くver. 3.0》の4点を展示した。生体を取り込んだ芸術作品は、美術館では規定などで展示の実現が難しいことが多く、今回は生物展示をする貴重な機会となった。人間中心的にすべてが進んでゆく近代社会の限界が叫ばれているとき、人間ではない生き物から人間の姿を問う作品と見ることができる。



Lines—貝の成長線を聴くver. 3.0 | 2018 | UVプリント、アクリル | 各1550x600mm
(上)アサリ 2011.7.3福島県相馬市松川浦 採取 | (下)アサリ 2015.7.17福島県相馬市松川浦 採取

貨幣の記憶 | 2018 | アーカイバルピグメントプリント | 305x457mm

やどかりに「やど」をわたしてみる | 2009-2018 | ヤドカリ、樹脂、海水水槽一式

長谷川祐子氏(審査員)のコメント
「AKI INOMATAさんは、水槽のなかにヤドカリがいるという、生物を展示に持ち込むところがユニークなのですが、それだけではなく、いろいろな意味で人間と生態系の関係を問うていると思います。人間主体ではなく、人間ではない生き物と共に、また生き物を観察し、研究者や技術者ら専門家との共同作業をとおして作品を作っています。さらに、都市の彫刻を乗せた殻から殻へと移っていくヤドカリが、都市から都市へと人が移動していくグローバルな世界を表す、つまりミクロなものがマクロなものを表していて、興味深かったです。」


長谷川祐子氏

大賞を受賞した小金沢には、賞金100万円と、副賞として上海(2018年11月)そして「アートフェア東京2019」(2019年3月)での受賞作発表の機会が与えられる。また、大賞・特別賞両受賞者に、TERRADA ART COMPLEX 2階の「TAC ART STUDIO」での制作場所(半年〜1年間)が提供される。

和田昌宏


和田昌宏は、映像インスタレーション《黒い廊下、あるいは2人の男と21人のネルシャツ》を出品した。背格好が似ているのみならず同じ服装をした無表情の2人の男が山を下り、黒く長い廊下の先にある空間で、己の力を発散させる。その生々しい跡が残る同じ空間に、今度はネルシャツを着たハイカーたちがやってきて、肉を焼きはじめる。現代社会によって分断された人々の群が次から次へとやってくる空間をめぐって物語は進むが、はっきりとした筋書きはない。しかしながら、ときどき聞こえてくる沸騰した湯が放つ笛吹ケトルのやかんの音が、社会に作られる人間性の臨界点を指し示し、この作品の方向性と強度を支えているようでもある。

黒い廊下、あるいは2人の男と21人のネルシャツ | 2018 |木材、電球、HDシングルチャンネル | 20’00”

《黒い廊下、あるいは2人の男と21人のネルシャツ》より

《黒い廊下、あるいは2人の男と21人のネルシャツ》より

尤洋氏(審査員)のコメント

「暗くて狭い通路を通っていくと大きなスクリーンに映像が投影されています。和田さんの作品は、人間性に対する深い憂慮の念、現代社会のジレンマのようなものが表されているように思いました。膨大な時間と労力を注ぎ込んだ力作でした。」


尤洋氏(右)

冨井大裕




冨井大裕は、ニューヨークに滞在した時に集めたというスーパーの袋を素材にした作品《PP_R》を国内ではじめて展示した。また、ショップの紙袋を素材にした《PP_FS》、ノートを素材にした《NR》、さらに絵葉書を素材にした《PS》の計4点を展示空間に配置した。モノが、そのモノとして、作品の素材として、そして作品として同時に見える形を追求する冨井。その作品や空間は、この社会が規格によって成り立っていることを考えさせる。そうした作品を少し離れたところから見ると、都市のように見えることだろう。モノから都市空間のあり方が見えてくる展示空間を作り上げた。

PP_R | 2015 - | ビニール袋 | サイズは作品により異なる


PS | 2015 - | 絵葉書 | サイズは作品により異なる

Joyce Toh氏(審査員)のコメント

「冨井さんの作品は、消費に走る社会と消費されるモノ、また彫刻と建築を巧みにまとめて一つにしたと考えられます。冨井は、日常でよくみかけるモノを使い、消費などを含む現代社会の多くの問題点に触れつつ、興味深い彫刻の言語を作っているように思いました。」


Joyce Toh氏